タイタンの大気にふりそそぐ宇宙線 
アルマの発見

タイタンの大気にふりそそぐ宇宙線 

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砂嵐(すなあらし)の中でクッキーをつくるのは、むずかしいですよね…。砂(すな)のつぶが材料に入ってしまうし、できあがったとしてもおいしくないでしょう。 

宇宙でも、太陽系(たいようけい)の外から飛んできた細かなつぶが『分子(ぶんし)』のできあがり方を変えてしまうことがあります。アルマ望遠鏡は、土星の衛星タイタンの大気を調べて、その証拠(しょうこ)を発見しました。 

タイタンは、土星のまわりにある大きな月です。地球の月よりもはるかに大きくて、水星よりももっと大きなサイズです。地球の月や水星とちがって、タイタンには「ちっ素」をたくさんふくんだ厚い大気があります。 

タイタンの大気では、「ちっ素」が「ほかの原子(げんし)」と結びついて、より大きな『分子(ぶんし)』が作られています。小麦粉やさとうなどの材料が組み合わさってクッキーができあがるのと少しにていますね。 

ところで、自然界には「ふつうのちっ素」と「重たいちっ素」の2種類のちっ素があります。すると、ちっ素をふくんだ分子でも、ちがったタイプが生まれます。 

この「ふつうのちっ素」と「重たいちっ素」の量にちがいがあるのは、太陽から飛んでくる紫外線(しがいせん)が原因だということはすでにわかっていました。でも、紫外線は大気の深いところまで入れないので、紫外線によって変化するのは大気の上のほうにある『分子』だけです。 

日本の天文学者たちは、タイタンの大気の深いところ(下のほう)でも、同じように2種類のちっ素の量にちがいがあることを発見しました。『アセトニトリル分子(1つのちっ素+3つの水素+2つの炭素が結びついたもの)』を調べたところ、重たいちっ素をふくんだ『アセトニトリル分子』の数が予想よりも少ないことがわかったのです。 

この原因は、太陽から飛んでくる紫外線(しがいせん)ではありません。原因は、宇宙線(うちゅうせん)です。太陽系(たいようけい)の外から飛んでくる宇宙線によって、重たいちっ素の入ったほうの『アセトニトリル分子』(=重たいちっ素の入った分子)がこわされるためだと天文学者たちは考えています。宇宙線はとても動きのはやい細かなつぶで、大気を通りぬけることができます。そのため、大気の深いところにある分子まで変化させてしまうのです。 

タイタンの大気にふりそそぐ宇宙線についてコンピュータで計算してみると、アルマ望遠鏡の観測と同じ結果がえられました。 

タイタンの大気中の分子は、砂嵐(すなあらし)の中で作られたクッキーのようです。タイタンの大気中で作られた分子は、太陽系の外から飛んできた細かいつぶによって少し変わったものになります。 

この研究は、タイタンだけでなくほかの惑星(わくせい)の大気でも、宇宙線によってどんな変化があるのかを理解するのに役立つかもしれません。 

わたしたちの地球では、宇宙線のことをそんなに心配する必要はありません。なぜなら、地球の磁場(じば)によって保護されて守られているからです。 

◎タイタンは、どんな衛星(えいせい)? 

タイタンは、土星を周回する最も大きな衛星(えいせい)です。土星は、美しい環(わ)でよく知られていますね。タイタンは、1655年にオランダの天文学者クリスティアーン・ホイヘンスさんによって発見されました。20世紀、別のオランダの天文学者ジェラルド・カイパーさんは、タイタンに厚い大気があることを発見しました。タイタンの最初の観測写真は、1980年にNASAの宇宙探査機(たんさき)「ボイジャー1号」によって撮影(さつえい)されました。2004年から2017年には、NASAの別の探査機「カッシーニ」を使ってくわしい研究が行われました。またタイタンの発見者にちなんで「ホイヘンス」と名づけられたヨーロッパの探査機は、タイタンの表面に着陸しました。そして今回、アルマ望遠鏡によって、タイタンの厚い大気の中にある「ちっ素をふくむ分子」について、くわしいことが明らかになったのです。 

◎だれが調べたの? 

タイタンの大気中のアセトニトリル分子の研究は、日本の天文学者である東京大学の飯野 孝浩(いいの たかひろ)さん、京都産業大学の佐川 英夫(さがわ ひでお)さん、国立天文台の塚越 崇(つかごし たかし)さんによって行われました。飯野さん、佐川さん、塚越さんたちは、タイタンを研究するためにアルマ望遠鏡による新しい観測をする必要はありませんでした。彼らは、アルマ望遠鏡のデータベースに保存されている過去の観測データを調べたのです。今回、アルマ望遠鏡のデータアーカイブに保存されている古いデータを分析することによって、重たいちっ素原子を含むアセトニトリル分子が予想外に少量であることを発見したのです。この発見は、科学雑誌「アストロフィジカル・


ジャーナル」に発表されました。 

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