熱いガスのかたまりがつくる「空の穴」
アルマの発見

熱いガスのかたまりがつくる「空の穴」

Read time: 1 minute

アルマ望遠鏡が、宇宙の大きな穴を写し出しました。それはまるで、だれかが青いカーテンに丸い穴を空けたようです。穴の後ろには大きな銀河団が見えます。しかし、見た目にだまされてはいけません。実際、「青いカーテン」は銀河団の向こう側にあるのです。それは、宇宙マイクロ波背景放射といい、ビックバンのエネルギーのかすかな残りです。背景放射は138億光年かけて私たちに届きます。銀河団はもっと近く、50億光年以内です。いったい、どうなっているのでしょう?

この「穴」を作る仕組みは、2人のロシア人天文学者が約50年前に初めて予言しました。2人の名前はラシッド・スニヤエフさんとヤコブ・ゼルドビッチさん。2人の名前を取って、スニヤエフ・ゼルドビッチ効果と呼ばれています。言いにくい名前のため、研究者はこれをSZ効果と呼んでいます。どういうことか説明しましょう。

宇宙マイクロ波背景放射は、アルマがまさに観測できるミリ波やサブミリ波として地球に届きます。背景放射の光のつぶは、とても小さなエネルギーしか持っていません。それをキャッチするために、アルマは「受信機」を使います。とても低いエネルギーでも受信できるのです。ここまでは、わかりますね?

でも、光のつぶが銀河団を通りぬけるとき、面白いことが起きます。銀河と銀河の間には、とても熱いガスのかたまりがあります。宇宙マイクロ波背景放射の光のつぶは、その熱いガスの中のにある別のつぶとぶつかります。その結果、光子はまるでおしりをたたかれたように、エネルギーが急に増えます。つまり、ガスのかたまりに入る時よりも、ガスをぬけて地球に向かってくるときの方が、より高いエネルギーを持っていることになります。

アルマは低いエネルギーの光のつぶを観測しますが、銀河団のほうからやってくる光のつぶはみんなエネルギーが高くなっているので、低いエネルギーの光のつぶが望遠鏡に届かなくなります。だからアルマの写真は穴が空いたように見えるのです。この写真は、アルマのデータ(青いカーテン)とハッブル宇宙望遠鏡の銀河団の写真を合成しています。ガスのかたまりは予測とぴったり合って、「穴」として写っています。

研究者はこの新しい観測にわくわくしています。アルマ望遠鏡で初めてSZ効果を観測できたからです。銀河団の熱いガスそのものはアルマでは見えませんが、SZ効果を研究することで、ガスの広がりや性質を知る手がかりをつかむことができるからです。

なにが?

この写真の銀河団はRX J1347.5-1145と呼ばれています。何百もの銀河が集まった集団です。この銀河団はおとめ座の方向に48億光年はなれています。この銀河団のスニヤエフ・ゼルドビッチ効果は、前に他の望遠鏡でも観測されていますが、アルマ望遠鏡はずっと高い感度でくわしい様子を見せてくれました。

だれが?

アルマ望遠鏡によるこの銀河団のSZ効果の測定は、日本人の研究者チームで行なわれました。リーダーは東邦(とうほう)大学の北山哲(きたやま・てつ)さんです。望遠鏡の視野を広くするために、北山さんたちはアルマ望遠鏡の66台すべてのアンテナではなく、小さなモリタアレイを使うことを決めました。モリタアレイ(アタカマ・コンパクト・アレイとも言います)は、アルマ望遠鏡の一部で、口径7mのアンテナ12台でできています。他の54台のアンテナの口径は12mです。この結果は、2016年10月に日本天文学会が発行する雑誌で発表されました。


ALMA URL