じしゃくの力ですくすく育つ赤ちゃん星 Read time: 1 minute みなさんはじしゃくで遊んだことがありますか? それはまるでマジックのようです。じしゃくには、見えない力がはたらいています。それは間接的にしか見ることができません。たとえば、紙の上に砂鉄(さてつ)をふりかけて、その紙の下にじしゃくを置きます。すると、じしゃくの力は、砂鉄のちらばり方で見ることができます。 それだけではありません。じしゃくの力は、「光」でも見ることができます。光は「波」です。ふつうの光の波は、まっすぐ進みながらいろいろな方向に波打つのですが、じしゃくの力がはたらくと、ひとつの方向にだけ波打つようになります。 ひとつの方向にだけ波打つ光は、「偏光(へんこう)」とよばれます。アルマ望遠鏡のような特別な装置を使うと、この「偏光」があるかないかを調べることができます。天文学者たちは、赤ちゃん星がふきだすジェットを調べて、ジェットから出る「偏光」をさがしました。 赤ちゃん星は、ガスやちりが集まった雲から生まれます。ほとんどの場合、赤ちゃん星は、回転する平らな円ばんにかこまれています。赤ちゃん星の多くは、円ばんに直角(ちょっかく)な2つの反対方向に、細長いジェットをふきだしています。 赤ちゃん星のジェットには、一酸化ケイ素(SiO)という分子(ぶんし)がふくまれます。一酸化ケイ素は、光のなかまである「ミリ波」という電波を出しています。この電波をアルマ望遠鏡で調べてみると、ひとつの方向にだけ波打つ「偏光」が見つかりました。これは、ジェットの中で、じしゃくの力がはたらいていることを意味しています。 天文学者たちは、長いあいだ、「赤ちゃん星のジェットには じしゃくの力がはたらいているにちがいない」と考えてきました。そうでなければ、赤ちゃん星から遠くはなれた場所でも、ジェットが広がらずに細長い形のままである理由を説明できなかったのです。そして、今回初めて、ジェットの中でじしゃくの力がはたらいていることがはっきりたしかめられました。 この発見はとても重要です。なぜなら、赤ちゃん星がどのようにして生まれるのかを理解するのに役立つからです。ふつう、赤ちゃん星に向かって、まわりの雲の円ばんからガスやちりが落ちていくのはむずかしいことです。なぜなら、赤ちゃん星の中心部分と雲の円ばんは、ものすごいスピードで回転しているからです。あまりに回転がはやいので、星の材料になるガスやちりは、赤ちゃん星からとびちってしまうのです。 赤ちゃん星からふきだすジェットは、この回転エネルギーを遠くに運んでいきます。そして、ジェットのおかげで、赤ちゃん星の回転がおそくなります。そのため、よりたくさんの星の材料が赤ちゃん星に落ちていって、赤ちゃん星がすくすく成長できるのです。今回の発見によって、赤ちゃん星の成長は、じしゃくの力によるものだということがわかりました。もし、じしゃくの力がなかったら、ジェットは細長い形のままではいられません。すると、赤ちゃん星の回転エネルギーを弱めることはできないのです。 「HH-211」って、どんな星? アルマ望遠鏡は、ペルセウス座の方向に約1000光年の場所にある赤ちゃん星を調べました。「HH-211」として知られるこの赤ちゃん星は、おそらく10000歳にもなっていません。宇宙の中ではとてもわかい星です。今は、太陽の重さの20分の1しかありませんが、今後さらに大きくなると予想されています。この赤ちゃん星は、2つの細くて長いガスのジェットを宇宙にふきだしています。アルマ望遠鏡は、このジェットの中の一酸化ケイ素から出る電波を、赤ちゃん星から1000億キロメートルの近さで観測することができました。 だれが調べたの? アルマ望遠鏡による「HH-211」の観測は、台湾にある中央研究院 天文及天天文物理学研究所(ASIAA)のチンフェイ・リーさんがリーダーをつとめる研究チームが行いました。リーさんは、台湾とアメリカの天文学者たちと協力しました。新しい研究結果は「ネイチャー・コミュニケーションズ」の2018年11月号で発表されました。 ALMA URL